知って得するお役立ち情報2022 ⑤

職安法改正


職業安定法が2022年10月に改正される。今回の改正は主に、「求人等に関する情報の的確な表示」(法第5条の4)、「求職者等の個人情報の取り扱い」(法第5条の5)、「募集情報等提供事業者の範囲拡大」(法第4条第6項)、「特定募集情報等提供事業者の届出制度創設」(法第4条第7項、第11項)であるが、これらの点について特に求人企業が留意すべき点についての概要を紹介する。
なお、厚生労働省のWebサイトには、法令やリーフレットなど、法改正に関する一連の資料が公開されている。紙幅の都合で述べることができない詳細については、こちらを参照頂きたい。


令和4年職業安定法の改正について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000172497_00003.html

1 求人等に関する情報の的確な表示

求人情報に虚偽や誤解を生じさせる表示をしてはいけないことと、求人情報を正確で最新の内容に保たなければならないこととなった。
虚偽表示の例としては、
・実際に求人を行う企業と別の企業の名前で求人を行うこと
・正社員の募集と称して、実際にはパートタイマーの募集を行うこと
などが「令和4年 改正職業安定法Q&A」(厚生労働省作成 以下Q&A)で紹介されている。
誤解を生じさせる表示とは、虚偽の情報ではないが、一般的・客観的に誤解を生じさせる表示である。優れた製品開発実績を持つグループ会社の実績を大きく記載し、あたかも求人企業の実績のように表示することなどが、例として挙げられている。(Q&Aより)
次に求人情報を正確かつ最新の内容に保たなければならない点について説明する。求人企業は、労働者の募集等に関する情報に関して一義的な責任を負っているとされており、そのために情報を正確かつ最新の内容に保つことを求められている(Q&A 問2-7)。Q&A 問2-7には対応の具体例が、以下の通り紹介されている。

・募集を終了した場合や募集情報の内容を変更した場合には、速やかに募集情報の提供終了や内容の変更をする。 ・求人メディア等の募集情報等提供事業者を活用して労働者の募集を行っている場合は、募集の終了や内容の変更を当該募集情報等提供事業者において提供する募集情報にも反映するよう依頼する。 ・募集情報の時点を明らかにする。 ・求人メディア等の募集情報等提供事業者から、募集情報の訂正や内容の変更を依頼された場合には、速やかに対応する。



2 個人情報

労働者になろうとする者(以下 求職者)の個人情報の収集、使用、保管に際しての規制である。業務の目的の達成に必要な範囲内で、目的を明示したうえで収集、使用、保管しなければならない。ただし、本人の同意がある場合や正当な理由がある場合はこの限りではないことも定められている。
「業務の目的の達成に必要な範囲」の具体例は、求人企業向けのリーフレットで紹介されている。それによると、選考課程の分析に使用するために個人情報を匿名化してデータ分析に用いること、面接日時の連絡に使うことなどは該当する例とされており、求人企業以外の企業の採用活動に使用することや、求人に関係のないサービスに入会させる目的は該当しない例とされている。
次に「業務目的の明示」 について説明する。2022.6.10厚生労働省告示第198号(以下 指針)第5の1には、個人情報を収集する際に「どのような目的で収集され、保管され、又は使用されるのか、求職者等が一般的かつ合理的に想定できる程度に具体的に明示すること」と定められている。個人情報保護法ガイドライン(通則編)3-1-1には、「一般的かつ合理的に想定できる程度に具体的に特定することが望ましい」(下線部筆者)と述べられており、職業安定法が個人情報保護に関する一般法である個人情報保護法よりも厳しい取扱いを求めていることがわかる。業務目的の明示として適切な例については、リーフレットやQ&Aで確認頂きたい。
最後に、上記二つの規制の適用を除外する但し書きについて述べる。但し書きの適用を受けるためには、本人の同意を得る必要があるが、その際には以下の点に留意する必要がある(指針5の1の(6))。
・同意を求める事項について、求職者が適切な判断ができるよう、可能な限り具体的かつ詳細に明示すること
・同意を労働者募集の条件としないこと
・求職者の自由な意思に基づき、本人より明確に表示された同意であること



3 募集情報等提供事業者の範囲拡大

改正前の法律では、募集情報等提供を、求人企業の依頼を受けて求人情報を求職者に提供すること、求職者の依頼を受けて求職者のプロフィールを求人企業に提供することの2つと定義していた。改正後の法律では、この2つに加えて、求人企業の依頼を受けずにインターネットで公表されている求人情報等を収集(Webスクレイピングと呼ばれている)して求職者に提供することと、求職者の依頼を受けずに求職者情報等をスクレイピングして求人企業へ提供することの2つも募集情報等提供とされるようになる(法第4条第6項)。そして、この行為を行う者を募集情報等提供事業者という。



4 特定募集情報等提供事業者の届出制度創設

求職者の情報を収集して行う募集情報等提供を特定募集情報等提供といい、その事業者に届出義務を新たに課すこととなった(法第4条第7項、第11項、法第43条の2)。
求職者の情報を扱うため、募集情報等提供事業のうち求職者に関する情報提供を行う事業者は当然に特定募集情報等提供事業者となるが、求人企業の情報を提供する事業者であっても、求職者から情報を得て、その情報を募集情報等提供に用いる者も特定募集情報等提供事業者に該当する。
ここで問題になるのは求職者の情報は何かという点と、募集情報等提供と認められる行為は何かという点の2つだろう。求職者の情報とは、個人を識別できる情報と、その他の情報(メールアドレス、サイト閲覧履歴、位置情報)とされている。個人を識別できるか否かを問わず、求職者に関する情報と考えておけばよいだろう。
募集情報等提供に用いるとは何か?については、該当しない行為がQ&A 問1-7で紹介されている。以下にその内容を引用する。

「メールアドレスを収集していている場合であっても、合同説明会等の一般的なお知らせや当日の入場管理のみに使用し、労働者の募集に関する情報を提供するために利用していない場合や、合同説明会に参加した企業に当該メールアドレスを提供していない場合など、募集情報等提供に利用していないと認められる場合には特定募集情報等提供には該当しません。」
募集情報等提供事業者の類型(1から4号まで)と特定募集情報等提供事業者に該当するか否かのフローチャートが下記資料に記載されている。事業者の区分を理解するのに参考となるだろう。



届出書等記載要領
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000965560.pdf

3および4に関しては、求人企業にとって直接関係のない法改正だが、特定募集情報等提供事業者については届出義務が課されていることを考慮する必要があるだろう。求人企業としては、適切に届出を行っている事業者と付き合うようにすべきであると考える。事業者の届出状況については、10月以降に下記のサイトで確認できる。

厚生労働省「人材サービス総合サイト」
https://jinzai.hellowork.mhlw.go.jp/JinzaiWeb/GICB101010.do?action=initDisp&screenId=GICB101010

開業部会 久保英信

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